バッシング
---- 1日目 ----------------
10:30
病院受付に提出書類を預けると、担当病棟の看護師さんが迎えに来た。個室は希望しなかったが、4床ある相部屋には、現時点で私しかいないらしい。手術日程を丁寧に説明してもらう。
12:00前
本を読んでいたら、若い医師が抗生剤の点滴を打ちに来た。左腕を圧迫し、血管をさわさわ3分。そう、私の血管のわかりづらさには定評がある。「(血管)曲がってるなー」のひと言に「根性もです」と不要なカミングアウトをしそうになるが、「利き腕でないほうにしましょうね」という心意気に胸と針を打たれた。ほんの少し違和感があるが、点滴を受け慣れていないのでこんなもんだろうと流す。
腕が完全に自由ではないので、ゴロゴロしているほかない。08:00から手術まで飲食を控えなければならず、口もヒマ。せめてもの気休めに、ポッドキャストを聴く。
救急車のサイレンが建物脇でピタっと止まったり、目眩と吐き気に襲われてつらそうなおばあさんが向かいのベッドにいらしたりすると、場違いな自分の存在を痛感する。
14:00
看護師さんから呼ばれて、口腔外科へ。血圧計、脈拍計、心電図のペタペタ、さらに酸素の管を鼻にとりつけられる。手術の担当医が、点滴の管に抗生剤とは違う液体を注入している。「これから眠くなりますね」。…この巨体にそんな少量を。バカめ!足りんわっと豪傑ぶっていたら、視界がダブってきた。
15:30
…たよ
終わりましたよー
早々と意識を失った巨体は、肩をたたかれて覚醒。止血用のガーゼを噛む。意識がぼんやりしているので、ストレッチャーで病室まで運ばれた。こういうふうに職場に通えたらいいのに。
腫れどめの点滴を打つことになったが、さっきの針の部分にますます違和感が。ぼんやり状態からふと気づくと、左腕が膨れている(なんとなくぷっくりしているの、わかるかしら…↓)。
看護師さんを呼ぶと「あら、漏れましたねぇ。でもゆっくり皮下から吸収されるので、心配ないですよ」と、右腕に新たに刺してくれた。お上手。
30分後、「こんなん出ましたけどぉ」とさっきまで私の一部だった親知らず諸君(肉片つき)を見せられる。「軽い虫歯の左下、生え方やや斜めな左上、立派な虫歯の右上、少し骨を削って3等分して抜いた右下」。意識のないあいだ、あれこれされていたのかと思うと、局部麻酔の手術を選ばず正解だった。「歯、持って帰りますか」と問われて「ファイッ(←麻酔+ガーゼ=滑舌悪)」と即答する貧乏性。家帰ったら磨こう。
血も止まったようなので、ガーゼを外してもらう。滲む鉄の味。
18:00
術後であることに配慮して、五分粥食というやわらかいごはんが出される。右下が鈍く痛み、煮付けでも魚をうまく噛めない。粥もあまり箸が進まない。こういう場面での胡麻豆腐の存在は救いだ。デザートについてきたのは、りんご味のヨーグルトをもったりさせたような「朝エンジョイゼリー」。夜エンジョイゼリーだと、卑猥度が増してしまうから仕方なかろう(失言)。
…硬いものが食べたい。軟骨。でも食べたら血まみれだと承知している。
18:55
腹が減った。閉店間際のコンビニを、点滴をガラガラさせてうろつく(←点滴による頻尿で、扱いが達者になった)。半額の札に惹かれ、54円のコーヒー風味シュークリームを買う。やわらかいものの奴隷。
食後の薬を飲み、歯磨きをして、イソジンで口を消毒。
20:00
この日最後の抗生剤点滴。30分後には終わり、管を外してもらう。針はつけたまま。
21:00
消灯。日中寝てばかりいたせいか、あまり眠くならない。ジェーン・スーさんや、安住さんの番組の過去放送分(04/20・05/04)を聴く。安住さんの、オープニング低めのテンションからじわじわ高揚していくさまがたまらない。言葉の合間を「えー」「あのー」でつながないところがプロだと思う。そしてこの人の真面目に屈折してるところも好き。
---- 2日目 ----------------
03:40
寝飽きちゃう。ぜいたくな悩み。
05:20
無理に寝るのはやめよう。この記録をつけ始める。
06:15
おはようございますの血圧測定。最高が88で、いつも以上に低い。向かいのおばあさんも、昨日よりは血圧が落ち着いたようす。朝のひと刺し(抗生剤点滴)後、看護師さんは患者の iPad mini に興味津々。
計測のとき、このバーコードをピッとやられるんだけど、何円って表示されるかなぁと想像してしまう。
07:45
朝食。朝エンジョイゼリーはプレーン、つまりミルク味。ネーミングどおりエンジョイできたと思う。一方のおばあさんは、昨晩も朝も食事はエンジョイできなかった。せつない。
梅醤の誤用法(塩気と色気がほしかった)。私は比較的薄味なのだが、病院食は数段薄い。1週間買い食いせずに過ごしたら、3kgは痩せそう。そしてきっと退院後は、激しくリバウンド。
朝の顔。右下の頬が、飴玉を含んでいるようなかたちに。
08:40
おばあさん、タオルで身体拭き中にセクシーな吐息。
09:00
口腔外科で診察。ここのドSなところは、待ち合いにananのおやつ特集号を設置している点だろう。担当医のチェックを受けて、抜糸の日程を決めた。
09:20
晴れて退院。入院費・薬代込みで27,660円也。予想よりも高額ではなかった。日帰りで手術すれば10,000円でおさまるかもしれないが、術後の経過が安定するかどうかを考えると、これで十分満足だ。
11:30
今日は一日休暇の予定だったが、体調に問題はなさそう。風呂に入って昼前から出勤。
机の上に、大御所からのおみやげがあった。堅そうな大好物をいつ食べられるだろうと眺めつつ、昼ごはんがわりの寒天をほおばる。
15:50
腹が減りすぎて、ちんすこうを前歯で咀嚼(意外ともろかった)。おかげで小動物のような咀嚼法を確立しつつある。進化だと信じたい。