この君 air

おおきに閲覧。

春、張る 食い意地

 

木曜日

外勤日だった。通常の外勤は火曜が主だが、月に1度は他の曜日に仕事が回ってくる。昼、せっかくなので火曜定休のお店に足を運ぶことにした。肉屋直営の食事処で、ランチがかなりお得らしい。

ラストオーダー30分前、入店。ひとりですと告げると、店員が心なしか驚いている。どうやら店内は座敷席のみで、ひとり客は稀なのだろう。ご遠慮しようかと思ったが、四人席へ通してくれた。となりのご夫婦は二人席でこじんまり食べているので、ちょっと恐縮。

気を取り直して、ここはひとつ贅沢にステーキ丼を注文。あ、ご飯少なめで。

「おひとりさま、ステーキ丼でーす」

「あ、おひとりさまのトコにお茶を!」

テーブルに番号がついていないのか、おひとりさま連呼の刑。独り身のわびしさをほうじ茶で流しこむ。

 10分後。

「おひとりさまぶんでーす」と奥から声が聞こえ、お膳が運ばれてきた。…え、これで990円?いいの? サシの入った柔らかい肉が、きざみ野菜とともにごはんを覆っている。味つけはソースで洋風。ジューシーな肉は、おろし醤油とわさびでさっぱり食べたいと思うのは、老化の始まりだろうか。

ひと口ほおばれば家族の顔、もうひと口で「昼はコンビニで済ませっかなぁ」とケムにまいた同僚の顔が浮かび、自分ばかり贅沢することに罪悪感すら湧いてきた。この口福を味わうには、やはり複数人さまのほうがいい。 口元についたソースを潔くぬぐって、ごちそうさまでした。

…次回は牛めし食べたい。

 

 

金曜日

予定があり、昼前から再び市外脱出。約束までの空き時間、10年ぶりに献血に挑むことにした。東京にいた頃、大学に移動献血車が来たときに協力していたが、地元に戻ってからはご無沙汰。今回は献血ルームが近くにあったので、足を運んでみた。

2年前に開設されたというこの出張所、血を抜く場とは思えない居心地の良さである。突如来所した献血希望の外国人に「Can you speak Japanese? No?… Oh…」と職員が悪戦苦闘する珍事も起きたが、それを除けばまったりムード。(献血前のアンケートも日本語のみで、そういうケースは想定外のようだ。ちなみに「献血=blood donation」、そのまんまだね。)

待合スペースには、雑誌や漫画を読んだり、テレビを見たり、親子でお菓子をつまんだりと、慣れたようすでくつろぐドナーの姿が。挙動不審ではいられぬと、私も情報誌を手に着席。「へぇ、古窯に菓子工房ができたんだ」「どんどん焼きっておいしいのかな」とつい夢中になる。

その後、なごみ系老医師の問診を受け、いよいよ血の濃さをはかる番になった。

「お昼はまだ召し上がってないんですね」

「はい」

献血前に、スープなどで水分補給しておいてください。あちらで好きなものが飲めますので」

かわいい看護師さんがちゅーっと血を抜き、機械にかける。

数分後。

「せっかくお越しいただいたのに、すみません…」

切ない顔で看護師さんが差し出した紙には「5月2日のヘモグロビン値は 11.8g/dl でした」と記されていた。あと0.2。献血ルームに来ておいて数値が足りないなんて、謝るべきはこちらのほうである。

「ただ貧血というわけではないので、ご心配なさらずに。ヘム鉄を含む食品を、日頃から食事に取り入れるといいかもしれません」

献血バディの秘訣を伝授していただく。次回こそ必ず!Perfect Body!(ケイン風に)

 

…さて、予想外に早く終わってしまった。そして、おなかがすいた。最初はハンズに行こうと思ったが、さきほどの待合で、ソースの香りを想像して悶絶したどんどん焼きが頭から離れない。これはもはや恋なのだ、と掲載店のひとつに向かう。

小さな店内では、次々訪れる客に「はい次の方、ご注文なぁに」と名物おばちゃんが陽気に応対。それに合いの手を入れるかのように、レジ周辺からはピヨピヨと音が鳴る。見ていて飽きない。

どんどん焼き処女なら王道のソース味から攻めるべきだが、空腹につき、邪道のピザどんどんをケチャップ少なめで注文(見本写真のケチャップの量に慄いたため)。しばらくすると、焼き立てどんどんとともに「自分でかけちゃって」とケチャップやタバスコを渡された。焼き担当のおばちゃんの熱気に満ちたヘラさばきを眺めながら、カウンターでがぶり。生地はもちもち、ボリュームたっぷりで気取らない味。たまに食べたくなるのもわかる気がする。海側にこの食文化がないのはなぜかしら。

お客さんはほとんどが持ち帰り。あれを家で、あるいは外で、わいわい食べるのはさぞ楽しかろう。

 

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1本しか買ってないのに、割引券をこんなにくれた。ありがとう。

※『笑神様は突然に…』にお店が登場予定とのこと。放映日未定だが乞うご期待。

 

本来の目的だった用事も済ませ、家路につく。空も暗くなり、ふたたび小腹がすいてきた頃、道の駅のドトールに立ち寄った。

「ソフトクリームひとつください」

「あ、申し訳ありません。うちでは取り扱っていないんです」

私の大好物であるドトールのソフトは、ガソリンスタンド併設店のメニューらしい。あまりのショックに、こじゃれた飲料で代替しようという気も起きない。「じゃあいいです」と踵を返し、念願のソフトを舐め尽くしたのは、その2時間後のことだった ←けっきょく地元で食べた人

 

この食い意地、なんとかしたい。

 

 

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おまけ:街なかで見たこいのぼりと、芝生の注意書き。養生してね。